不動産投資で個人から法人になれば3つの法人税がかかる

不動産投資で個人から法人になれば3つの法人税がかかる

個人で不動産投資を行いつつ法人化すれば、節税できることもありますが、3つの法人税が課されることとなります。

個人で不動産投資を行いつつ法人化を検討する方へ向けて、法人化することにより課せられる3つの法人税をご紹介しましょう。

目次

1. 法人で不動産投資を行うことにより課される3つの法人税

個人で不動産投資を行いつつ不動産所得が発生すれば、所得税と住民税が課され、10棟以上の一戸建てや10室以上の部屋を賃貸しするなど事業規模が大きければ事業税も課されます。

そして、法人化すれば、所得税と住民税、事業税は課されませんが、代わりに3つの法人税が課されることとなります。

不動産投資を行いつつ法人になることにより課される3つの法人税とは、法人所得税、法人住民税、法人事業税です。

法人所得税とは、個人で不動産投資を行うことにより課される所得税にあたり、国が課税し、赤字であれば納税する必要はありません。

法人住民税とは、個人で不動産投資を行うことにより課される住民税に該当し、都道府県と市町村に納めることとなりますが、一部は地方法人税いう名称で国に納付します。

法人住民税は、赤字であっても課されます。

法人事業税とは、個人で不動産投資を行うことにより課される事業税にあたり、都道府県が課税し、赤字であれば納税は不要です。

ただし、事業税は事業規模の不動産投資を行うことにより課されますが、法人事業税は法人である以上、事業規模が小さくとも所得があれば課されることとなります。

法人所得税、法人住民税、法人事業税をわかりやすく簡単に図解でご説明すると以下のとおりです。

不動産投資を個人から法人に切り替えることにより課される3つの法人税

つづいて、個人から法人になることにより課される3つの法人税の詳細と税率、税額を計算する方法をわかりやすく簡単にご説明します。

なお、これ以降「課税標準」という言葉が幾度も登場します。

課税標準とは、何かしらの税金が課される状況において、税率を掛け算する基となる額であり、課される税金によって意味が異なります。

たとえば、個人で不動産投資を行いつつ利益が発生すれば所得税が課されますが、その額は「課税標準×所得税の税率」と計算し、具体的な計算式は以下のとおりです。

個人で不動産投資を行うことにより課される所得税の計算式
課税標準×所得税の税率=所得税

上記の式における課税標準は、不動産所得です。

不動産所得とは、個人で不動産投資を行うことにより得た、所得税が課される対象となる収益です。

また、不動産を所有すると固定資産税が課されますが、その税額は、以下のように「課税標準×固定資産税の税率」と計算します。

固定資産税を計算する式
課税標準×固定資産税の税率=固定資産税

上記の式に含まれる課税標準は、その不動産の固定資産税評価額です。

固定資産税評価額とは、市町村によって評価された、その不動産の適正な時価を意味します。

このように課税標準とは、何かしらの税金が課される状況において税額を計算する基となる額であり、課される税金によって意味が異なるため留意してください。

法人化することにより課される3つの法人税も課税標準を基に計算しますが、それぞれの課税標準は、意味が異なります。

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2. 不動産投資にかかる法人所得税の課税標準と税率

不動産投資を行いつつ個人から法人化することにより課される1つめの法人税は、法人所得税です。

法人所得税とは、個人で不動産投資を行うことにより課される所得税に該当し、以下の式で税額を計算します。

法人所得税の計算式
課税標準×法人所得税の税率=法人所得税

法人所得税を計算する式に含まれる課税標準は「所得」であり、所得は以下の式で計算します。

課税標準である所得の計算式
益金-損金=所得

式に含まれる益金は、不動産投資を行うことにより得た家賃収入の総額です。

損金は、主に不動産投資を行うことにより支払った固定資産税、損害保険料、減価償却費、修繕費、ローンを利用しつつ投資用物件を購入した場合は返済にかかる利息、自身を含む役員への報酬です。

既にお気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、個人で不動産投資を行う場合、必要経費に自身への報酬を含めることができませんが、法人化すれば可能になります。

さらに、自身を含む役員への報酬は、自らが決定できます。

これを理由に、「不動産投資は個人から法人になれば、自身や家族に高額な給与を支払い、その額を損金に含めつつ益金を0円にし、税金を安くできる」といわれます。

不動産投資は個人から法人になれば、自分への給与を損金に含めることができる

しかし、自身を含む役員への報酬として、能力を超えた額を支払えば「不相当に高額」と税務署に見なされ、損金として計上できないことがあるため注意してください。

例を挙げると、不動産経営に知識がない奥様を役員に就かせつつ500万円の給与を支払うなどすれば、損金とは認められません。

そして、法人所得税の税率は、法人の種類、資本金の額、所得の額によって異なり、資本金が1億円以下であれば以下のとおりです。

不動産投資にかかる法人所得税の税率

所得の額が年800万円以下の部分 15%
所得の額が年800万円を超える部分 23.20%

出典:国税庁 法人税の税率

たとえば、1年の所得が800万円であれば「800万円×15%=120万円」と計算し、法人所得税は120万円です。

また、1年の所得が1,000万円であれば「(800万円×15%=120万円)+(約200万円×23.20%≒464,000円)=約1,664,000円」と計算し、法人所得税は約1,664,000円となります。

ここで気になるのが、個人で不動産投資を行うことにより発生した不動産所得に課される所得税の税率です。

所得税と法人所得税の税率を比較すれば、個人、または法人で不動産投資を行うメリットやデメリットが判明しやすくなります。

個人で不動産投資を行うことにより発生した不動産所得に課される所得税の税率は、不動産所得の額に応じて上がる累進課税方式であり、詳細は以下のとおりです。

個人で不動産投資を行うことにより得た不動産所得に課される所得税の税率

不動産所得の額 税率 控除額
1,000円~1,949,000円 5% 0円
1,950,000円~3,299,000円 10% 97,500円
3,300,000円~6,949,000円 20% 427,500円
6,950,000円~8,999,000円 23% 636,000円
9,000,000円~17,999,000円 33% 1,536,000円
18,000,000円~39,999,000円 40% 2,796,000円
40,000,000円以上 45% 4,796,000円

出典:国税庁 所得税の税率

以上が、個人で不動産投資を行うことにより得た不動産所得に課される所得税の税率です。

法人所得税は、最低の税率が15%と高く、所得の額に応じて税率は上がるものの23.20%で止まります。

一方、所得税は、最低の税率が5%と低く、所得の額に応じて税率は45%まで高くなります。

つまり、不動産投資は、不動産所得が低ければ個人で運営する方が、不動産所得が高ければ法人化する方が税金が安くなるというわけです。

不動産投資は所得が少なければ個人が、所得が多ければ法人の方が良いとされる

ただし、個人と法人には違いや特徴があるため、税率だけではどちらが良いと断言できないため留意してください。

たとえば、法人化し、自身や役員へ報酬を支払えば、所得を減らしつつ節税できますが、報酬を受け取った自身や役員には、その額に応じた所得税や住民税が課されることとなります。

また、法人は10年にわたり赤字を繰り越しつつ各種法人税の額をコントロールできますが、個人であれば3年までであり、なおかつ青色申告ができる条件を満たさなければなりません。

このように個人と法人には特徴や違いがあり、法人化を検討する際は、不動産投資自体の戦略を再度確認する必要があります。

ちなみに、自身や役員への報酬の支払いが「不相当に高額」であれば損金として認められないことは、法人税法の第三十四条の第2項にて規定され、その部分をわかりやすく簡単にご紹介すると以下のとおりです。

法人税法 第三十四条 第2項
法人が役員に対して支給する給与の額のうち、不相当に高額な部分の金額は損金に算入しない

つづいて、不動産投資を個人から法人に切り替えることにより課される2つめの法人税「法人住民税」をわかりやすく簡単にご紹介します。

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3. 不動産投資にかかる法人住民税の課税標準と税率

個人で不動産投資を行いつつ法人に切り替えることにより課される2つめの法人税は、法人住民税です。

法人住民税とは、個人で不動産投資を行うことにより課せられる住民税にあたり、法人税割、均等割、地方法人税の3つに分類され、不動産投資による所得があれば、3つの法人住民税を全て納付しなければなりません。

不動産投資を個人から法人に切り替えることにより課される住民法人税とは?

3つの法人住民税の課税標準と税率は、以下のとおりです。

均等割
均等割は、資本金が1千万円以下、従業者数が50人以下であれば7万円であり、不動産投資を行うことにより得る所得が0円や赤字であっても課されることとなります。
法人税割
法人税割は、1期間の事業年度の所得が課税標準となる法人住民税であり、税率は7%です。

個人における事業年度は1月1日から12月31日までの1年間ですが、法人は自らが事業年度を決定することが可能であり、1期間の事業年度とは、法人自らが決定した事業年度の期間を意味します。

たとえば、法人化しつつ1月1日から12月31日までの1年間を事業年度とし、その事業年度の所得が1,000万円であれば「1,000万円×7%=70万円」と計算し、法人税割による法人住民税は70万円です。

法人税割は、不動産投資による所得が0円や赤字であれば課されません。
地方法人税
地方法人税の課税標準は、1期間の事業年度の所得に課された法人所得税の額であり、税率は10.3%です。

均等割と法人税割は、都道府県と市町村に収めることとなりますが、地方法人税は、住民税でありながら国に納める性質を持ち、地方法人税を徴収した国は、集めた税額を各都道府県と市町村に配分します。

その理由は、均等割と法人税割による徴税のみでは、法人数が少ない都道府県や市町村は税収が少なくなるためです。

地方法人税は、法人所得税の額が0円であれば課されません。

それぞれの税率は標準税率であり、都道府県や市町村によっては超過税率が適用されることがあります

以上が、不動産投資を個人から法人に切り替えることにより課される法人住民税の内訳です。

ご紹介したとおり、法人税割は不動産投資が赤字であっても課されるため注意してください。

均等割と法人税割の課税標準や税率に関する詳細は「総務省:法人住民税」にて、地方法人税の課税標準の詳細は「国税庁:地方法人税が創設されました」にて、地方法人税の税率は「国税庁:地方法人税の税率の改正のお知らせ」にてご確認いただけます。

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4. 不動産投資にかかる法人事業税の課税標準と税率

個人で不動産投資を行いつつ法人化することにより課される3つめの法人税は、法人事業税です。

法人事業税とは、個人で不動産投資を行うことにより課される事業税に該当し、都道府県に収める地方税となっています。

個人で不動産投資を行うことにより課される事業税とは、戸建てであれば10棟以上、マンションやアパートであれば10室以上を賃貸しするなどの事業規模での不動産投資を行う投資家に課される税金です。

個人で不動産投資を行うことにより課される事業税は、事業規模の不動産投資を行う場合に限り課されますが、法人事業税は、法人であり所得が発生すれば必ず課せられることとなります。

法人事業税の課税標準は法人の種類、資本金の額によって異なり、不動産経営を行う資本金一億円以下の法人であれば、課税標準は所得です。

所得とは、個人で不動産投資を行うところの不動産所得であり、法人は「益金-損金=所得」と計算しつつ課税額が計算されます。

税率は所得の部分によって異なり、年400万円以下の部分は3.5%、年400万円を超える800万円以下の部分は5.3%、年800万円を超える部分は7%です。

法人事業税の課税標準と税率

たとえば、1年の所得が1,000万円であれば「(400万円×3.5%=14万円)+(約400万円×5.3%≒212,000円)+(約200万円×7%≒14万円)=492,000円」と計算し、法人事業税額は49万2,000円です。

事業税には事業主控除と呼ばれる年間290万円の控除が設けられていますが、残念ながら法人事業税には、そのような控除は認められません。

ちなみに、個人で不動産投資を行うことにより課される事業税の税率は、不動産所得の額を問わず一律5%となっています。

事業税の計算例を挙げると、不動産所得が1,000万円であれば「(1,000万円-事業主控除の290万円)×5%=355,000円」と計算し、税額は35万5,000円です。

先にご紹介した、所得が1,000万円における法人事業税の額が492,000円ですから、事業税の方が税額が低くなります。

ただし、法人化すれば、自らに給与を支払いつつその額を経費に含めることが可能です。

よって、法人化しつつ自らに給与を支払えば、法人事業税の課税標準となる所得を減らし、法人事業税額を下げることができます。

法人事業税には事業主控除はないが、自らへの報酬を損益に計上しつつ税額をコントロールできる

なお、事業税を支払えば、その額は経費として計上することが可能であり、不動産所得を減らしつつ所得税を安くできます。

これは法人事業税も同じであり、支払った額は損金として計上することが可能であり、所得を減らしつつ法人事業税を減額できます。

また、ご紹介した法人事業税の税率は標準税率であり、都道府県によっては超過税率が課される場合があるため留意してください。

法人事業税の正確な課税標準と税率は「総務省:法人事業税」にて確認することが可能です。

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まとめ - 個人でも配偶者への給与を経費にできる

個人で不動産投資を行いつつ法人化を検討する方へ向けて、法人になることにより課される3つの法人税をご紹介しました。

法人税は「法人税等」と呼ばれ、法人所得税、法人住民税、法人事業税に大きく分類されます。

法人所得税は、個人で不動産投資を行うことにより課される所得税にあたります。

法人住民税は、個人で不動産投資を行うことにより課せられる住民税に該当します。

法人事業税は、個人で不動産投資を行うことにより課される事業税にあたります。

所得税、住民税、事業税、法人所得税、法人住民税、法人事業税には、それぞれ適用されることや適用されないことが異なり、税率だけでは一概に個人と法人のどちらが良いと判断できません。

とはいうものの、所得税は累進課税方式であり、不動産所得が低いければ税率が低く、不動産所得が高ければ税率が飛躍的に高くなります。

これに対して法人所得税は、所得が低くとも税率は高くあるものの、所得が高くなってもさほど税率が上がりません。

よって、不動産所得が低いうちは個人で不動産投資を行い、不動産所得が多くなれば法人化するのが理想といわれます。

個人で不動産投資を行いつつ法人化を検討する方がいらっしゃいましたら、ぜひご参考になさってください。

なお、この記事でもご紹介したとおり、法人化すれば、ご自身やご家族に給与を支払いつつ損益に計上し、所得を減らすことができます。

これを理由に法人化を検討する場合は、事業的規模で不動産投資が行われているのであれば、個人であってもご家族への給与を経費に含めることができるため留意してください。

事業的規模とは、いわゆる5棟10室などと呼ばれる基準を満たす規模の不動産投資であり、一戸建てであれば5棟以上、賃貸マンションやアパートであれば10室以上を賃貸しする規模の不動産投資です。

そして、白色申告であれば、配偶者は最高86万円、配偶者以外の親族であれば1人につき最高50万円、または不動産所得を専従者の数に1を足した数で割った額の給与の支払いが必要経費として認められます。

青色申告であれば、配偶者や親族に支払った給与のうち、「労務の対価として相当であると認められる金額」を必要経費として計上できます。

ただし、個人で不動産投資を行う場合は、自らの給与は必要経費に含めることはできません。

個人で不動産投資を行うことにより、配偶者や親族への給与が必要経費として認められることの詳細は、「国税庁タックスアンサーNo.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除」にてご確認いただけます。

ご紹介した内容が、個人で不動産投資を行いつつ法人化を検討される皆様に役立てば幸いです。失礼いたします。

最終更新日:2022年4月
記事公開日:2018年9月

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