生産緑地法とは?わかりやすく解説

生産緑地法とは?わかりやすく解説

生産緑地法とは、都会に残る農地などの緑地を守り、緑と調和する健全な都市環境を作ることを目的とした法律です。

生産緑地法をわかりやすく解説し、生産緑地の意味を簡単にご説明しましょう。

目次

1. 生産緑地法とは、都会の緑を守るための法律

まずは、生産緑地法をわかりやすく解説します。

冒頭でご説明したとおり、生産緑地法とは、都会に残る農地などの緑地を守り、緑と調和する健全な都市環境を作ることを目的とした法律です。

近年の市街地は、より一層の市街化が進み緑が減り続けています。

農林水産省が公開する資料によれば、平成5年には全国の市街地には143,258ヘクタール(1ヘクタールは10,000平方メートルで3,025坪です)の農地があったものの、平成23年には83,632ヘクタールまで減っているとのことです。

その主な原因は、市街地に残る農地が不動産業者に買い取られつつマンションなどが建てられている、市街地に農地を所有する農家の後継者不足などですが、市街地から緑がなくなれば、都会で生活する人々の心が休まる場所がありません。

都会で生活する人が穏やかな心を保つためには一定の緑が必要であり、緑こそが人々の心を豊かにします。

よって、生産緑地法は、市街地に残る農地などの緑地を守ることを目的として存在します。

生産緑地法とは、都会の緑を守るための法律

具体的に生産緑地法では、以下の3つの条件を満たす市街地に残る農地の所有者の同意が得られれば、市町村はその農地を生産緑地に指定できると定めています。

市町村が市街地に残る農地を生産緑地に指定できる条件

  • 公害や災害を防止しつつ農業や林業と調和した都市環境を保つための効果があり、なおかつ緑地として適している
  • 500平方メートル以上の広さがある(市町村が条例で定める場合は300平方メートル以上でかまわない)
  • 農業や林業が安定して継続できる条件を備えている

そして、生産緑地に指定された農地の所有者には、以下の税制優遇措置が適用されます。

固定資産税の軽減
固定資産税とは土地や建物などの所有者に毎年課せられる税金であり、農地の所有者にも課せられますが、所有する農地が生産緑地に指定されれば税額が安くなります。
相続税の免除
生産緑地を相続し、なおかつ相続人が終身営農する場合は相続税が免除されます。

上記のように生産緑地の所有者には税制優遇措置が適用され、それに伴い農業を継続しやすくなります。

農業が継続しやすくなれば市街地に緑地が残りやすくなり、生産緑地法の目的である「市街地に残る農地などの緑地を守る」が達成されやすくなります。

このように生産緑地法とは、市街地に残る農地などの緑地を守ることを目的とした法律であり、良好な都市環境を形成するために存在します。

以下は、東京都練馬区高松と練馬区羽沢に所在する生産緑地の様子です。

東京都練馬区高松付近の生産緑地の様子

東京都練馬区羽沢付近の生産緑地の様子

どちらにも生産緑地であることの標識が立てられていますが、これらは生産緑地法の第六条の規定により設置された標識であり、生産緑地法の第六条をわかりやすく簡単に解説すると以下のとおりです。

生産緑地法 第六条(標識の設置等)
市町村は生産緑地内に標識を設置し、その地区が生産緑地であることを明示しなければならない。また、生産緑地に指定された農地の所有者は、正当な理由がない限り標識の設置を拒んではならず、市町村の承諾を得ずに標識を移動したり撤去してはならない

なお、先にご紹介したとおり、生産緑地に指定された農地の所有者は固定資産税や相続税の税制優遇措置が適用されます。

これにより市街地に農地を所有する農家は農業を継続しやすくなりますが、生産緑地法の第七条により、その生産緑地を使用する者は適切に管理をしなくてはならないと規定されています。

生産緑地法の第七条をわかりやすく簡単に解説すると以下のとおりです。

生産緑地法 第七条(生産緑地の管理
生産緑地を使用する者は、生産緑地を農地として適切に管理しなければならない

また、生産緑地法の第八条では、生産緑地内で以下の3つのことを行うためには市町村長の許可が必要であると定めています。

  • 建築物の新築や改築、増築(生産物の直売所、農家レストランなどは新築や改築、増築できる)
  • 建物を建てるために土地を均すことや土石を採取すること
  • 水面がある場合は埋め立てたり堤防を作るなどして水の流入を止めること

つまり、所有する農地が生産緑地に指定されれば税制優遇措置が適用されるものの、放置して荒れ地にしてはならず、自宅を建てるなどの開発は制限されるというわけです。

生産緑地法は市街地に農地などの緑地を残すことを目的とする法律のため、開発が制限されることは当然といえますが、生産緑地に指定された農地を所有する方は注意しなくてはなりません。

加えて、生産緑地法の第九条では、生産緑地に指定された農地の所有者が制限を無視した場合は、市町村は元に戻すように命ずることができると定めています。

生産緑地法の第九条をわかりやすく簡単に解説すると以下のとおりです。

生産緑地法 第九条(原状回復命令等)
生産緑地に指定された農地の所有者が制限を守らず建物を建てるなどの開発を行った場合は、市町村長は元に戻すように命ずることができる。元に戻すことが困難な場合は、代わりとなる適切な措置を取るように命ずることができる

このように生産緑地法では、市町村が生産緑地として指定できる農地の条件に関すること、生産緑地の所有者が制限されること、生産緑地の所有者が制限を無視して開発を行った場合の市町村長の権限などが規定されています。

生産緑地法の全文は「電子政府の総合窓口e-Gov 生産緑地法」にて確認することが可能です。

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2. 生産緑地とは?簡単に解説

つぎに、生産緑地の意味をお調べの方へ向けて、わかりやすく簡単に解説しましょう。

生産緑地とは、都会に農地などの緑を残すために市町村が指定した、市街地に位置する500平方メートル以上などの緑地です。

緑地という言葉が難解ですが、緑が生い茂った土地とお考えください。

生産緑地とは市町村が指定した市街地に位置する緑地

昨今、市街地は一層の市街化が進み、田畑などの緑地が失われつつあります。

その原因は、市街地で農業を営む農家の後継者不足、市街地に所在する農地の所有者が開発の波に押されて土地を売ってしまった、周辺の地価が上がり固定資産税(土地などの不動産の所有者に毎年課せられる税金であり、周辺の地価に応じて税額が計算され、地価が高くなれば税額が上がる)が払えないなど様々です。

しかし、市街地から緑が失われれば、都会で生活する人々の心が休まる場所がありません。

都会で暮らす人々は緑を求める傾向があり、緑が心のよりどころになっています。

そこで、市町村が指定するのが生産緑地です。

生産緑地は主に市街地に残る農地に指定され、生産緑地に指定された農地の所有者は、固定資産税が安くなるなどの税制優遇措置を受けることができます。

税制優遇措置が適用されれば、市街地に残る農地を所有する農家が農業を継続しやすくなり、都会に緑が残りやすくなります。

生産緑地とは、都会に残る緑を守るために市町村が指定した、農地などの緑地です。

以下は、東京都世田谷区に位置する生産緑地の様子です。

東京都世田谷区の生産緑地の様子

なお、令和2年の時点において、全国の市街地には約12,000ヘクタールの生産緑地が存在します。

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3. 生産緑地法の2022年問題とは?

生産緑地法をわかりやすく簡単に解説すると、市街地に残る農地などの緑地を守り、緑と調和する健全な都市環境を作ることを目的とする法律です。

そして、市街地に農地を所有する方は、所有する農地が市町村から生産緑地と指定されれば税制優遇措置が適用されることとなり、令和2年の時点において全国には約12,000ヘクタールの生産緑地が存在します。

この市町村による生産緑地の指定ですが、1992年(平成4年)に行われた生産緑地法の改正によって規定され、同改正では、市町村が生産緑地に指定する期間が30年であることも定められました。

また、同改正では、30年が過ぎれば生産緑地の指定が解除されつつ税制優遇措置が適用されなくなるものの、生産緑地の所有者はその生産緑地を市町村に時価で買い取るように希望できることも規定されました。

しかし、昨今の市町村は財政難であり、全国の市町村が約12,000ヘクタールもの土地を買い取ることは不可能です。

そうなれば生産緑地は不動産業者などに売却され、マンションなどが建築される可能性があります。

つまり、1992年から30年後である2022年には、全国各地の市街地から約12,000ヘクタールもの緑地が一斉に失われる虞があるというわけです。

この問題を生産緑地法の2022年問題などと呼び、国会などで議論されることとなりました。

生産緑地法の2022年問題とは

その結果、2017年(平成29年)に再び生産緑地法が改正され、生産緑地の所有者が希望する場合は、生産緑地の指定期限を10年単位で延長できることとなり、2022年問題は解決される見通しが立っています。

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まとめ - 実は、都会の緑を除去するショッキングな法律

生産緑地法をわかりやすく解説し、生産緑地の意味を簡単にご説明しました。

生産緑地法とは、市街地に残る農地などの緑地を守り、緑と調和する健全な都市環境を作ることを目的とした法律です。

生産緑地とは、生産緑地法によって市町村から生産緑地と指定された市街地に残る農地などの緑地であり、所有する農地が生産緑地に指定されれば固定資産税が安くなるなどの税制優遇措置が適用されます。

生産緑地法や生産緑地をお調べの方がいらっしゃいましたら、是非ご参考になさってください。

生産緑地法は、人口の増加による都市部の住宅不足が問題になっていた昭和49年ごろに制定されています。

そして、制定当時は、市街地に残る農地の固定資産税を引き上げ、市街地に所在する農地の所有者に土地を売却させつつ開発させることを促す、現在とは趣旨が正反対の法律でした。

つまり、生産緑地法は「市街地に残る緑を除去するために」という、今となってはショッキングな法律として制定されたというわけです。

しかし、その後時代の流れが変わり、市街地に残る農地などの緑地こそが都会で暮らす人々の生活を豊かにするという考えが主流になりました。

市街地の緑を除去しつつ開発を進めるために制定された生産緑地法は時代遅れになり、都会に緑を残すべきという考えが主体となったというわけです。

そこで、平成4年に生産緑地法が改正され、市街地に残る農地などの緑地を守り、都市と緑を共存させることを目指す現在の趣旨に変更されました。

その後も平成29年に再び生産緑地法は改正され、2022年問題に対応する内容に変更されています。

最後に、生産緑地法の年表をご紹介しましょう。

生産緑地法年表

出来事 時代背景
昭和49年 市街地に所在する農地を宅地(建物を建てるための土地)に変更することを促すために制定 都市部の住宅不足が問題化
平成4年 市街地に残る農地などの緑地を保存するための法律に改正。市街地に所在する農地を30年間の期限で「生産緑地」に指定し、都市部の農地の保存に努める 都市部の住民が緑を求めはじめる
平成29年 30年の期限が迫る2022年に全国各地の生産緑地の指定が一斉に解除され、都市部から緑地が失われることが懸念される。この問題を解消するために、生産緑地の指定期限を10年単位で延長できることが閣議決定される 2022年問題

ご紹介した内容が、生産緑地法や生産緑地をお調べになる皆様に役立てば幸いです。失礼いたします。

最終更新日:2021年10月
記事公開日:2019年12月

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