筆界特定が使えない理由

筆界特定が使えない理由

筆界特定とは、法務局に申請しつつ境界を特定する制度ですが、筆界特定は使えないといわれます。

その理由は様々ですが、ある人は「筆界特定は費用が安いと聞いていたが、予想より金がかかった」といい、ある人は「筆界特定には法的拘束力がなく、結局は訴訟になった」といいます。

筆界特定が使えないといわれる三つの理由と、筆界特定の費用の目安、筆界特定以外の境界に関する紛争を解決する制度をご紹介しましょう。

目次

1. 筆界特定は、法的拘束力がなくて使えない

筆界特定が使えないといわれる一つめの理由は、筆界特定制度は筆界を特定するのみの制度であり、特定した筆界を境界とする法的拘束力がないことです。

土地の境界には、筆界(ひっかい)所有権界(しょゆうけんかい)があります。

筆界とは、登記簿など書面上の土地の境界であり、一筆の土地と一筆の土地、地番と地番の境目です。

これに対して所有権界とは、現場における土地の境界であり、所有権と所有権の境目を指します。

筆界と所有権界は一致することもありますが、一致しないこともあります。

筆界と所有権界の違い

そして、筆界特定とは、登記簿や公図などの情報から、書面上の境界である「筆界」を現場で特定する制度となっています。

しかし、筆界特定は、筆界特定により特定した筆界をもとに境界標を埋設しなければならない、登記簿の情報を書き換えなくてはならないなどの法的拘束力を持ちません。

つまり、筆界特定により特定された筆界に、筆界特定の申請者や隣地の所有者が納得できなければ、状況は以前と変わらず事態は全く改善されないというわけです。

これが、筆界特定が使えないといわれる一つめの理由です。

筆界特定が使えないといわれる一つめの理由
筆界特定には法的拘束力なく、筆界特定により特定した筆界に利害関係者が納得できなければ、事態は全く改善されない

筆界特定により特定した筆界に利害関係者が納得できなければ、境界確定訴訟にて境界を確定させる必要があります。

境界確定訴訟とは、裁判所に筆界、または所有権界の確定を求める訴訟であり、判決には法的拘束力があります。

ただし、筆界特定により筆界を特定させた状況において、特定された筆界に納得できず訴訟を起こした場合は、裁判所は筆界特定の結果を尊重し、筆界特定により特定された筆界をもとに境界を確定する傾向があります。

ようするに、筆界特定には法的拘束力はないものの、筆界特定によって特定された筆界は有効であると裁判所に判断され、筆界特定によって筆界が特定されている場合は、さほど訴訟を起こす価値がないというわけです。

よって、筆界特定に望む際は、事前に利害関係者と協議し、筆界特定によって特定された筆界を境界とする、もしくは特定された筆界を指標として平等な境界を新たに設定することを決めておくことが理想です。

そうすれば、筆界特定を行ったものの以前と状況が変わらない、筆界特定は使えないと嘆くようなことにはならず、筆界特定の効力を最大限に活かせます。

筆界特定を使えるようにするためのポイント
筆界特定を行う前に利害関係者と協議し、筆界特定の結果に納得できなくとも、筆界特定により特定した筆界をもとに、平等な境界を新たに設置することを決めておく

▲ 目次に戻る

1-1. 筆界と所有権界が一致しない理由

筆界とは登記簿など書面上の土地の境界であり、所有権界とは現場における土地の境界です。

筆界と所有権界は一致しないことがあり、一致しないことを原因として境界のトラブルが発生することがあります。

筆界と所有権界が一致しない理由は様々ですが、よくある理由として、過去に所有権界を変更したものの、その事実を登記簿に反映していないことが挙げられます。

たとえば、土地を所有するAさんとBさんがいらっしゃったとしましょう。

AさんとBさんの土地は、「凹凸」という漢字をイメージさせる形状で接していました。

この時点において筆界と所有権界は一致し、筆界も所有権界も「凹凸」です。

筆界と所有権界が一致している状態

しかし、土地の使い勝手が悪く、AさんとBさんは協議して所有権界を移動し、漢字の「日」のように土地が接するように変更します。

所有権界を変更することにより土地の使い勝手は良くなりましたが、AさんとBさんは変更したことの登記を怠りました。

この時点において、筆界は「凹凸」、所有権界は「日」という、筆界と所有権界が異なる状況が発生します。

所有権界と筆界が一致しない状態

その後、AさんとBさんは他界し、Aさんの土地は、所有権界が変更されたことを知らないAさんの子である「A+さん」が相続します。

Bさんの土地は、同じく所有権界が変更されたことを知らないCさんに売却されました。

A+さんとCさんは、しばらくは問題なく土地を使っていましたが、何気なく登記簿と公図を見ると、そこには「凹凸」が境界であると記されています。

この状況において、A+さんとCさんの間で境界に対する見解が異なる状況が生まれ、トラブルに発展します。

ちなみに、当サイト「誰でもわかる不動産売買」では、筆界をわかりやすく解説するコンテンツを公開中です。

筆界がよくわからないという方がいらっしゃいましたら、ぜひご覧ください。

関連コンテンツ
筆界とは?わかりやすく解説

▲ 目次に戻る

2. 筆界特定は、費用が高くて使えない

筆界特定が使えないといわれる二つめの理由は、思っていたより費用がかかることです。

法務省の筆界特定のリーフレットには、「筆界特定の申請手数料は、土地の固定資産税評価額が4,000万円であれば8,000円です。また、手続き中に測量が必要となることがありますが、申請者が費用を負担する必要があります」と涼しげに書かれています。

筆界特定は、費用が高くて使えない

出典:法務省 筆界特定制度

記述を読む限り、「さほど費用は高くない、申請手数料と併せて20万円から30万円程度だろう」と高を括ってしまいますが、筆界特定制度の費用は測量費や調査費用、土地家屋調査士への報酬など合計50万円から150万円程度です。

50万円から150万円というと開きがありますが、土地の広さや形状、状況の複雑さなどによって費用が異なることが理由です。

また、筆界特定は比較的早く筆界が特定されるといわれますが、おおむね1年の日数がかかります。

筆界特定の流れは国土交通省の資料「筆界特定制度とは|国土交通省」に掲載され、主に以下のとおりです。

筆界特定の流れ

  1. 法務局に筆界特定の申請書を提出する(提出の際は申請手数料が必要となる)
  2. 申請から3~6ヶ月後に、予納金を納めるように法務局から案内が届く
  3. 予納金を納めると、法務局長によって任命された筆界特定登記官と筆界調査委員によって調査が行われ、筆界が特定される(予納金を納めなければ申請が却下される)
  4. 特定された筆界をもとに、筆界特定登記官が筆界特定書を作成する
  5. 筆界特定書の写しが、申請者や隣地の所有者に届く

思っていたより費用がかかる、比較的早く筆界が特定されるといわれつつも1年程度の日数を要することが、筆界特定が使えないといわれる二つめの理由です。

筆界特定が使えないといわれる二つめの理由
50万円から150万円程度の費用がかかり、筆界が特定するまでに一年程度を要する

しかし、境界確定訴訟によって境界を確定させる場合は、弁護士に支払う着手金や報酬、測量費用など併せて200万円程度の費用がかかり、境界が確定するまでに2~5年程度の日数がかかるといわれます。

よって、筆界特定は、訴訟に比べれば費用が安く短期間で筆界が特定されます。

なお、筆界特定は、筆界特定登記官と筆界調査委員により調査が行われつつ筆界が特定されますが、筆界調査委員とは、主に土地家屋調査士です。

そして、自治体によっては、土地家屋調査士の無料相談を行っていることがあります。

そのため、筆界特定を希望するものの費用が高額になるのではと案ずる場合は、土地家屋調査士による無料相談に出向き、費用に関することをご質問ください。

その際は、公図や登記簿などを持参すれば、より具体的な費用の目安が知らされる可能性があります。

筆界特定を使えるようにするためのポイント
筆界特定を申請する前に自治体の土地家屋調査士の無料相談などを利用し、費用に関することを質問する

▲ 目次に戻る

3. 筆界特定は、隣人が時効取得を主張すると使えない

筆界特定が使えない三つめの理由は、筆界特定により筆界が特定したとしても、隣地の所有者が越境部分の時効取得を主張すれば、境界が確定しないことです。

民法の第百六十二条「所有権の取得時効」により、一定の期間にわたり他人の土地を堂々と占有した者は、その土地の所有権を取得できる可能性があります。

たとえば、お隣同士のAさんとBさんがいらっしゃったとしましょう。

Aさんは、Bさんの土地の一部を自分の土地と勘違いし、10年にわたり堂々と使用していました。

この状況においてAさんが、時効によりその土地の所有権を取得したと主張し、なおかつ10年にわたりBさんの土地の一部を堂々と占有していたことを証明できれば、Aさんはその土地の所有権を取得する可能性があります。

Aさんがその土地の所有権を取得した場合は、「時効取得した」などといいます。

土地の所有権を時効取得できる条件は、以下の2つのいずれかを満たす場合です。

  • 十年にわたり他人の土地を、自分の土地と信じつつ公然と占有し続けた
  • 二十年にわたり他人の土地を、自分の土地ではないと知りつつも公然と占有し続けた

そして、筆界特定により筆界が特定したものの、越境部分の占有者がその部分の時効取得を主張する場合は、せっかく特定した筆界が無駄になる可能性があります。

筆界特定は、隣人が時効取得を主張すると使えない

筆界特定により筆界を特定したものの、越境部分の占有者がその部分の時効取得を主張する場合は、結局はトラブルが解決しません。

これが、筆界特定が使えないといわれる三つめの理由です。

筆界特定により筆界を特定したものの、一方が越境しつつ占有していた土地の所有権を時効取得したと主張し、もう一方がそれを認めない場合は、境界確定訴訟で争いつつ問題を解決しなければなりません。

筆界特定が使えないといわれる三つめの理由
筆界特定により筆界が特定したとしても、土地を占有し続けた者が時効取得を主張すれば意味がない

▲ 目次に戻る

4. あきらめない - 筆界や所有権界を特定する三つの制度

ここからは、土地の境界にお悩みの方へ向けて、紛争を解決できる可能性がある三つの制度をご紹介しましょう。

土地の境界に関する紛争を解決する制度には、本記事のテーマである「筆界特定」と「境界確定訴訟」「裁判外紛争解決制度(通称:ADR)」があります。

土地の境界に関する紛争を解決する三つの制度
  • 筆界特定
  • 境界確定訴訟
  • 裁判外紛争解決制度(通称:ADR)

それぞれの制度の詳細、特徴は以下のとおりです。

筆界特定とは?

筆界特定とは、法務局に申請をして筆界を特定させる制度であり、他の制度より費用が安く済む、比較的短期間で筆界が特定されるという特徴があります。

ただし、費用が安く済むといっても50万円から150万円程度の費用が必要であり、筆界が特定するまで1年程度の日数が必要です。

また、筆界特定には法的拘束力がなく、特定された筆界に利害関係者が納得しなければ問題は解決しません。

とはいうものの、筆界特定は土地の境界に関する紛争を解決する手段として最も利用される制度であり、「政府統計の窓口 e-Stat|法務局及び地方法務局管内別 筆界特定事件の受理、既済及び未済件数」によれば、2022年には4,125件の申請が受理されています。

筆界特定のポイント
  • 法務局に制度の利用を申請する
  • 特定される境界は筆界のみであり、所有権界は特定されない
  • 法的拘束力がなく、利害関係者が納得しなければ、特定された筆界を登記簿に反映できない
  • 筆界が特定されるまでの期間は1年程度
  • 費用の目安は土地の広さや状況の複雑さなどによって異なり、50万円から150万円程度
  • 利害関係者の協力がなくとも申請できる

▲ 目次に戻る

境界確定訴訟とは?

境界確定訴訟とは、裁判所に境界の確定を求める訴訟であり、筆界を確定させる「筆界確定訴訟」と、所有権界を確定させる「所有権確定訴訟」があります。

境界確定訴訟は、筆界確定訴訟と所有権確定訴訟を併せて提起することも可能であり、法的拘束力がありますが、他の制度より費用も時間もかかります。

境界確定訴訟の費用の目安は安くとも200万円程度といわれ、判決に至る期間は短ければ2年程度、長ければ5年程度です。

また、境界確定訴訟は隣人を相手に訴訟を起こすこととなり、手続きも公開されるため、ご近所との関係に影響を及ぼす可能性があります。

境界確定訴訟のポイント
  • 裁判所に訴えを起こす
  • 特定される境界は筆界、または所有権界、もしくはその両方
  • 法的拘束力があり、判決が確定すればその結果を登記する必要がある
  • 境界が確定するまでの期間は2年から5年程度
  • 費用の目安は200万円以上
  • 利害関係者の協力は不要

▲ 目次に戻る

裁判外紛争解決制度とは?

裁判外紛争解決制度とは「ADR」と略される制度であり、法務大臣の認証を受けた民間の紛争解決機関に紛争の調停を申し立てる制度です。

裁判外紛争解決制度は、土地の境界に関することを含め、様々な紛争の調停を申し立てることができます。

紛争解決機関に土地の境界に関する紛争の調停を申し立てれば、弁護士や土地家屋調査士によって利害関係者への聞き取り、土地の測量や筆界の鑑定などが行われ、調停による解決が図られます。

そして、紛争が解決すれば、利害関係者が納得した位置を境界として登記簿に記すこととなります。

こう聞くと、裁判外紛争解決制度は法的拘束力がなく筆界特定と変わらないという印象を受けますが、筆界特定によって筆界を特定させるのは、法務局長が任命した筆界特定登記官です。

一方、裁判外紛争解決制度は、調停(利害関係者の話し合い)によって筆界や所有権界が特定されるという違いがあります。

裁判外紛争解決制度は調停によって境界が特定されるため、利害関係者の協力がなければ申し立てることができません。

裁判外紛争解決制度と筆界特定の違い

裁判外紛争解決制度によって境界の合意、または不合意に至るまでの期間は1年程度といわれ、費用の目安は50万円から150万円程度です。

紛争解決機関の一覧は、「日本土地家屋調査士会連合会:ADR境界問題相談センター」にて確認できます。

裁判外紛争解決制度(ADR)のポイント
  • 紛争解決機関に土地の境界に関する紛争の調停を申し立てる
  • 筆界、所有権界を問わず利用できる
  • 調停だけに法的拘束力はなく、あくまで利害関係者との話し合いで境界を特定させる
  • 調停だけに利害関係者の協力がなければ申し立てできない
  • 紛争が解決しなければ、筆界特定や境界確定訴訟など他の制度の利用を検討しなければならない
  • 合意、または非合意に至るまでの期間は1年程度
  • 費用の目安は土地の広さや状況の複雑さなどによって異なり、50万円から150万円程度

▲ 目次に戻る

まとめ - それでも筆界特定は、やる価値がある

筆界特定が使えないといわれる理由をご紹介しました。

筆界特定が使えないといわれる理由は、主に以下の3つです。

  • 特定された筆界に法的拘束力がなく使えない
  • 費用が高くて使えない
  • 筆界が特定されたものの、隣人が越境部分の時効取得を主張すると使えない

筆界特定が使えないといわれる理由をお調べの方がいらっしゃいましたら、ぜひご参考になさってください。

なお、本記事でご紹介したように筆界特定には法的拘束力がないため、特定された筆界に利害関係者が納得できなければ、境界確定訴訟に臨まなければなりません。

境界確定訴訟は、いわば境界を確定させる最終手段であり、筆界特定により筆界が特定したものの、隣地の所有者が越境部分の時効取得を主張する場合も有効です。

ただし、筆界特定によって筆界が特定された状況において訴えを起こした場合は、筆界特定によって特定された筆界が有力な証拠として採用されます。

調停によって土地の境界に関する紛争を解決する「裁判外紛争解決制度(ADR)」も同じです。

筆界特定によって筆界が特定された状況において裁判外紛争解決制度を利用しても、やはり筆界特定によって特定された筆界をもとに境界を設定することを提案されます。

つまり、筆界特定は使えないといわれるものの、筆界特定によって特定された筆界は有効であり、筆界特定は決して無駄ではないというわけです。

よって、土地の境界に関するトラブルを解決するためには、やはり筆界特定が有効と考えられ、筆界特定によって筆界が特定すれば、その筆界を境界とするのが賢明です。

または、その筆界を以て利害関係者が譲歩し合い、新たな境界を決定しつつ登記簿に反映させるのが良いでしょう。

そうすれば、余分な費用をかけずに境界のトラブルを解決できます。

ご紹介した内容が、筆界特定の利用を検討する皆様に役立てば幸いです。失礼いたします。

最終更新日:2024年1月
記事公開日:2022年7月

▲ 目次に戻る

こちらの記事もオススメです