第三者のためにする契約とは?図解でわかりやすく解説

第三者のためにする契約とは、不動産業者が物件を転売する際に用いることがある、三為契約と略される契約です。
不動産業者が第三者のためにする契約を用いて物件を転売すれば、税金を節約できる、本来より高額な利益を得られるなどのメリットがあります。
一方、第三者のためにする契約によって転売される物件の買主は、本来より高く物件を購入しつつ債務超過に陥るリスクを負います。
第三者のためにする契約を図解でわかりやすく解説し、不動産投資を行う投資家と三為契約の関係、三為契約により物件が転売される際のお金の流れなどをご紹介しましょう。
目次
- 1. 第三者のためにする契約とは、不動産の転売時に用いられる契約
- 2. 買主からみる第三者のためにする契約のメリットとデメリット
- 3. 不動産投資の投資家が遭う三為契約の被害
- 4. 三為契約のお金の流れ
- 5. 第三者のためにする契約の文言の例
- 6. 第三者のためにする契約と中間省略登記
- まとめ
1. 第三者のためにする契約とは、不動産の転売時に用いられる契約
第三者のためにする契約とは、不動産を転売することを目的として物件を買い取る不動産業者が、その物件の売主と結ぶことがある契約です。
第三者のためにする契約を「三為契約」と略し、三為契約を用いて不動産を買い取りつつ転売することを得意とする不動産業者を「三為業者」と呼びます。
不動産業者が三為契約を用いて不動産を転売する際は、まずは、不動産の売主と「第三者のためにする契約」を結びつつ物件を買い取ります。
つぎに、「第三者のためにする契約」により買い取った物件を、買主に売却します。
不動産業者が第三者のためにする契約を用いて物件を転売する全体像をわかりやすく図解でご説明すると、以下のとおりです。

図解を見る限り、不動産業者は第三者のためにする契約を用いて物件を買い取りつつ転売する理由は、さほどないと考えられます。
通常の売買契約を結びつつ売主から物件を買い取り、その物件を買主に売却すれば良さそうなものです。
しかし、第三者のためにする契約を用いて物件を買い取りつつ転売すれば、税金を節約できる、通常の方法で転売するより多くの利益を得られるなど、不動産業者は2つのメリットを得ることができます。
つづいて、第三者のためにする契約を用いて物件を転売することにより不動産業者が得る、2つのメリットをご紹介しましょう。
なお、第三者のためにする契約を「三為契約」と略しますが、三為契約の読み方はさんためけいやくです。
また、第三者のためにする契約を用いて不動産を転売することを得意とする不動産業者を「三為業者」と呼びますが、三為業者の読み方はさんためぎょうしゃとなっています。
1-1. 不動産業者が三為契約を用いるメリット1:税金を節約できる
第三者のためにする契約を用いて物件を転売することにより不動産業者が得る1つめのメリットは、税金を節約できることです。
不動産業者が通常の方法を用いて物件を転売すれば、その物件の所有権は、売主から不動産業者へ、不動産業者から買主へと移ります。
通常の転売方法により所有権が移る流れをわかりやすく図解でご紹介すると、以下のとおりです。

物件の所有権が売主から不動産業者へ、不動産業者から買主へと移るのであれば、その都度「所有権移転登記」と呼ばれる登記が必要です。
所有権移転登記とは、いわゆる名義変更であり、所有権移転登記を行う者には登録免許税という税金が課されます。
所有権移転登記に課される登録免許税は、その所有権移転登記により所有権を得る者が納めるのが通例です。
また、不動産の所有権を取得した者には、不動産取得税という税金も課されます。
つまり、通常の方法を用いて不動産業者が物件を転売すれば、いったんは所有権を得ることとなり、登録免許税と不動産取得税がかかるというわけです。
登録免許税と不動産取得税は、高くなりがちです。
たとえば、実勢価格が5,000万円の土地の所有権移転登記に課される登録免許税は70万円程度、不動産取得税は52万円程度であり、納めた税金は、価格に上乗せしつつ物件を転売して回収しなくてはなりません。
しかし、不動産業者が第三者のためにする契約を用いて物件を買い取りつつ転売すれば、売主から買主へ直接所有権を移すことができます。
不動産業者が所有権を取得せずに済めば、登録免許税と不動産取得税がかからず、税金を節約しつつ転売できます。
その状況を図解でわかりやすく解説すると、以下のとおりです。

以上が、第三者のためにする契約を用いて物件を転売することにより不動産業者が得る1つめのメリットです。
1-2. 不動産業者が三為契約を用いるメリット2:利益が大きい
不動産業者が第三者のためにする契約を用いて物件を転売することにより得る2つめのメリットは、通常の方法で転売するより、多くの利益を得られる可能性があることです。
不動産業者は、不動産の売買を仲介することにより売主と買主、またはその一方から仲介手数料を受け取ることにより利益を得ています。
仲介手数料の額は、物件価格によって異なり、400万円を超える物件の売買を仲介する場合は「400万円×3%+6万円」と計算します。
計算例を挙げると、5,000万円の土地の売買を仲介した場合は「5,000万円×3%+6万円=156万円」と計算し、仲介手数料は156万円です。
仲介手数料は、場合によっては売主と買主の双方から得られるため「156万円×2=312万円」と計算し、5,000万円の土地の売買を仲介すれば、上手くすれば不動産業者は312万円の利益を得られます。
312万円といえば高額ですが、不動産業者は物件の売買を仲介することにより多くの責任を負うため、相応といえるかもしれません。
しかし、第三者のためにする契約を用いて物件を転売すれば、それ以上の利益を得られる可能性があります。
その理由は、不動産業者が第三者のためにする契約を用いて物件を転売する仕組みにあります。
不動産業者が第三者のためにする契約を用いて物件を転売する際は、まずは、売主と売買契約を交わしつつ売買契約書に署名捺印し、物件を買い取ります。
この際の売買契約書には、物件の買い取り金額が記されています。
つぎに、買主と売買契約を交わしつつ売買契約書に署名捺印し、物件を売却します。
この際の売買契約書には、物件の買い取り金額は記されず、物件の売却金額のみが記されています。
つまり、第三者のためにする契約により転売される物件の買主は、不動産業者がその物件をいくらで買い取ったか、すなわち仕入れ値を知る術がないというわけです。
その状況をわかりやすく図解でご紹介すると、以下のようになります。

これにより第三者のためにする契約を用いて物件を転売する不動産業者は、5,000万円で買い取った物件を1億円で売却するなど、仕入れ値と大きくかけ離れた額で転売できます。
5,000万円で買い取った物件を1億円で売却すれば、仲介手数料である312万円を大きく上回る額の利益を得ることが可能です。
これが、不動産業者が第三者のためにする契約を用いて物件を転売することにより得る2つめのメリットです。
なお、転売される物件の買主が、その物件の買い取り額を知ることができないのは、第三者のためにする契約を用いて転売される物件を購入する場合に限らないため留意してください。
通常の方法を用いて転売される物件を購入する際も、一部例外を除き、買主はその物件の買い取り額を把握できません。
2. 買主からみる第三者のためにする契約のメリットとデメリット
不動産業者が第三者のためにする契約により物件を転売すれば、税金を節約できるなどのメリットを得ます。
一方、第三者のためにする契約により転売される物件の買主は、一般的な不動産を購入するより、長期間にわたり修補を請求できるなどのメリットを得ます。
しかし、第三者のためにする契約により転売される物件の買主は、本来より大幅に高く物件を購入しつつ債務超過に陥るなどのリスクも負うこととなります。
第三者のためにする契約を用いて転売される物件の買主のメリットとデメリット、リスクの詳細は、以下のとおりです。
2-1. 三為契約の物件を購入することによる長期保証のメリット
第三者のためにする契約により転売される物件を購入する買主は、売主が個人である中古物件や土地を購入するより、長期間にわたり修補などを請求できるというメリットを得ます。
そもそも不動産の売主は、民法の第五百六十二条「買主の追完請求権」により、契約不適合責任を負います。
不動産の売主が負う契約不適合責任とは、引き渡した物件に、売買契約の内容に適合しない欠陥がある場合に、その欠陥を修補するなどして対応する責任です。
一方、不動産の買主は、同じく民法の第五百六十二条により、追完請求権を有します。
不動産の買主が有する追完請求権とは、売買契約を結びつつ引き渡しを受けた物件に、売買契約の内容に適合しない欠陥がある場合に、修補などを請求できる権利です。
追完請求権により買主が売主に請求できる具体的な内容は、主に以下の2つです。
追完請求権により請求できる権利 | 詳細 |
---|---|
修補や代替物の引き渡し | 欠陥の修補、または、その欠陥がある物件の代わりとなる物件の引き渡しの請求 |
代金の減額請求 | 欠陥に見合う物件代金の減額の請求 |
買主が追完請求権を行使して売主に上記の2つなどを請求すれば、売主は契約不適合責任を果たしつつ対応しなくてはなりません。
この売主が負う契約不適合責任ですが、その売主が個人であれば、売買契約書の特約に記すことにより、契約不適合責任を負う期間を短く設定する、または、契約不適合責任を免れることができます。
たとえば、以下のような記述です。
- 売主は、物件の引き渡しから1週間に限り、契約不適合責任を負う
- 売主は、契約不適合責任を負わない
売主が個人である中古住宅や土地の売買契約書には、上記のような記述があり、売主が負う契約不適合責任が制限されるのが通例です。
しかし、物件の売主が不動産業者の場合は、そのような特約を売買契約書に盛り込んだとしても無効です。
物件の売主が不動産業者の場合は、宅地建物取引業法の第四十条「担保責任についての特約の制限」により、契約不適合責任を最低でも2年は免れることができません。
第三者のためにする契約を用いて転売される物件の売主は、不動産業者です。
よって、第三者のためにする契約を用いて転売される物件の買主は、一般的な物件を購入するより、長期間にわたり修補などを請求できるというメリットを得られます。
ただし、修補を請求できるのは、壁紙の剥がれなどの軽微な欠陥ではなく、雨漏りやシロアリの食害、柱の傾き、土壌汚染など、重大な欠陥に限られるため留意してください。
2-2. 三為契約の物件を購入することによる債務超過のリスク
第三者のためにする契約により転売される物件の買主は、本来の価格を知らないまま、物件を購入することとなるのがデメリットです。
第三者のためにする契約により転売される物件を購入する際は、その物件の売主ではなく、その物件を転売する不動産業者と売買契約を結びます。
そして、その売買契約書に記されているのは、不動産業者と買主との間で売買される物件の価格のみであり、売主と不動産業者の間で売買された価格、すなわち物件の買い取り額は記されていません。
買い取り額が記されていなければ、本来の価値を大きく上回る額で物件を購入することとなる可能性があります。
たとえば、不動産業者が5,000万円で買い取った物件を、1億円で購入するなどです。
また、ローンを利用しつつ資金を借り入れ、本来の価値を大きく上回る額の物件を購入すると、債務超過に陥るリスクも負うこととなります。
ローンを用いて不動産を購入する際は、その物件を担保に入れ、返済できない場合は、その物件を売却しつつ返済金に充当します。
これによりローンは、一部例外を除き、帳消しになります。
しかし、その物件の価値を大きく上回る額を借り入れつつ物件を購入し、返済できない状況になれば、物件を売却しても完済できません。
その状況を図解でわかりやすくご紹介すると、以下のとおりです。

第三者のためにする契約を用いて転売される物件を購入すると、本来の価格を知らないまま物件を購入することとなるのがデメリットであり、ローンを利用する場合は、債務超過に陥るリスクも負います。
3. 不動産投資の投資家が遭う三為契約の被害
第三者のためにする契約とは、不動産業者が物件を転売する際に用いることがある契約であり、第三者のためにする契約を三為契約(さんためけいやく)と略します。
また、不動産業者の中には、第三者のためにする契約を用いて物件の転売を得意とする業者が存在し、その業者を三為業者(さんためぎょうしゃ)と呼びます。
そして、不動産投資を志す投資家の方が、第三者のためにする契約を用いて転売される投資用物件を三為業者から購入する際は、注意が必要です。
投資用物件には、三為業者が第三者のためにする契約を用いて転売する物件があり、その物件の価格は、その物件の本来の額を上回る、買主の借入限度額に設定されていることがあります。

たとえば、銀行から資金を借り入れつつ一棟アパートを購入し、不動産投資を始めたいと希望するAさんがいらっしゃったとしましょう。
Aさんが不動産業者に良い物件がないかと問い合わせると、その不動産業者は以下のように答えました。
不動産業者「良い条件で資金を借り入れできる銀行があります。まずはその銀行で審査を受け、どれくらいの資金を借り入れできるか確認してください。借り入れできる額に応じた物件を探しましょう。」
早速Aさんがその銀行で審査を受けると、数日後に1億円の融資が可能との結果が出ました。
審査の結果を聞いたAさんは気分を良くし、その足で不動産業者に向かい、借入限度額が1億円であることを伝えます。
すると不動産業者は、以下のように答えます。
不動産業者「そうですか、1億円で購入できる、ちょうど良い賃貸アパートがあるんですよ。Aさんにぴったりです。ただし、第三者のためにする契約により物件を購入していただきます。特に問題はありません。」
それを聞いたAさんは了承し、1億円の資金を借り入れつつ第三者のためにする契約を用いて物件を購入し、不動産投資を開始しました…。

この例え話において不動産業者は三為業者であり、Aさんの借入限度額が1億円であることを予め銀行から聞き、その額を物件価格に設定しつつ転売した可能性があります。
第三者のためにする契約により転売される物件の買主は、三為契約の仕組み上、いくらで不動産業者が物件を買い取ったか把握できません。
これを利用し、本来の額を大きく上回る金額で物件を転売する三為業者が存在します。
よって、不動産投資を希望する投資家が第三者のためにする契約により転売される投資用物件を購入する際は、注意が必要です。
また、不動産の買主がローンを利用しつつ物件を購入する際は、その物件を担保に入れ、返済ができない場合は、売却しつつ返済金に充当します。
これにより借り入れは帳消しになりますが、その物件の本来の価値を上回る額を借り入れた場合は、売却しつつ返済金に充当しても返済しきれません。
なお、第三者のためにする契約を用いて物件を転売する全ての不動産業者が、好ましくない転売を行うわけではないため留意してください。
4. 三為契約のお金の流れ
三為契約により物件が転売される際は、売主、不動産業者、買主の三者間で物件が行き交います。
そのため、物件代金のやりとり、すなわち、お金の流れが複雑になりがちですが、お金の流れは、全ての物件代金を即日中に決済する場合と、異なる日に決済する場合によって異なります。
三為契約のお金の流れの詳細は、以下のとおりです。
4-1. 即日・同時決済の場合
売主から不動産業者、不動産業者から買主へ即日中に物件代金が決済される場合は、まずは買主から不動産業者に物件代金が支払われます。
状況によっては、物件代金の決済日の前に、不動産業者から売主へ手付金が支払われることがありますが、その手付金は不動産業者が用意することもあれば、買主に前払いさせつつ用意することもあります。
つぎに、不動産業者が、買主から支払われた物件代金を以て、売主に物件代金を支払います。
買主から不動産業者へ、不動産業者から売主への物件代金の決済は別室などで行われ、不動産業者が売主からいくらで物件を買い取ったかは、買主が知ることはありません。
物件代金が即日中に決済される状況における、三為契約のお金の流れをわかりやすく図解でご紹介すると、以下のとおりです。

全ての決済が完了すれば、司法書士によって、その物件の所有権が売主から買主へ直接移されます。
以上が、全ての物件代金が即日中に決済される場合における、三為契約のお金の流れです。
4-2. 異なる日に決済する場合
売主から不動産業者へ、不動産業者から買主へ異なる日に物件代金が決済される場合は、まずは不動産業者から売主に物件代金が支払われます。
この物件代金は、主に不動産業者が立て替えるなどして用意しますが、買主に物件代金の一部を前払いさせつつ用意することもあります。
つぎに、異なる日に、買主から不動産業者に物件代金が支払われます。
物件代金が異なる日に決済される場合における、三為契約のお金の流れを図解でわかりやすくご説明すると、以下のとおりです。

買主から不動産業者に物件代金が支払われれば、司法書士によって、その物件の所有権が売主から買主へ移転します。
以上が、それぞれの物件代金が異なる日に決済される場合における、三為契約のお金の流れです。
5. 第三者のためにする契約の文言の例
第三者のためにする契約を用いて物件が転売される際は、その旨が文言として売買契約書に記されます。
記される文言は、売主と不動産業者の間で交わされる売買契約の売買契約書と、不動産業者と買主の間で交わされる売買契約の売買契約書によって異なります。
また、記される文言は、売買契約書の作成者によっても異なりますが、おおむね以下のような内容です。
5-1. 売主と不動産業者の売買契約書に含まれる文言の例
第三者のためにする契約を用いて物件が転売される状況において、売主と不動産業者の売買契約書に含まれる文言の例は、以下のとおりです。
- 1. 売主は不動産業者に物件を売り渡し、不動産業者は売主に代金を支払う
- 2. 物件の所有権は、売主から不動産業者が指定する買主へ直接移転する
- 3. 売主は、不動産業者が指定する買主からの受益の意思表示の確認を不動産業者に委託する
- 4. 不動産業者が買主の受益の意思表示を確認すれば、売主は不動産業者の所有権移転債務の履行を引き受ける
上記の文言をわかりやすく解説すると、以下のようになります。
- 1. 売主は不動産業者に物件を売り渡し、不動産業者は売主に物件代金を支払う
- 2. 物件の所有権は、売主から不動産業者が指定する買主へ直接移る
- 3. 売主は不動産業者に、買主が物件の所有権を取得する意思があることの確認を依頼する
- 4. 不動産業者によって、買主が物件の所有権を取得する意思があることが確認されれば、本来は不動産業者が請け負わなければならない、買主が物件の所有権を得るために必要となる手続きへの協力は、売主が請け負うこととする
なお、上記の文言は、特約に記されるのが通例です。
5-2. 不動産業者と買主の売買契約書に含まれる文言の例
第三者のためにする契約を用いて物件が転売される状況において、不動産業者と買主の売買契約書に含まれる文言の例は、以下のとおりです。
- 1. 不動産業者は買主に売主の物件を売り渡し、買主は不動産業者に代金を支払う
- 2. 不動産業者の買主に対する所有権移転債務は売主が実行し、物件の所有権は売主から買主へ直接移転する
上記をわかりやすく書き換えると、以下のようになります。
- 1. 不動産業者は、売主が所有する物件を買主に売り渡し、買主は不動産業者に物件の代金を支払う
- 2. 本来は不動産業者が請け負わなければならない、買主が物件の所有権を得るために必要となる手続きへの協力は、売主が請け負うこととする。そして、物件の所有権は、売主から買主へ直接移る
より正確な第三者のためにする契約の文言の例は、「公益財団法人不動産流通推進センター:第三者のためにする契約方式で行う買取り仲介の方法」にて確認することが可能です。
6. 第三者のためにする契約と中間省略登記
第三者のためにする契約を調べる方が知っておきたい不動産用語に、中間省略登記があります。
中間省略登記とは、平成19年1月より前に、不動産業者が物件を転売する際に用いた手法です。
不動産業者は中間省略登記を用いて物件を転売し、第三者のためにする契約で転売する際と同じく、売主から買主へ所有権を直接移し、登録免許税と不動産取得税を節約していました。
不動産業者が中間省略登記により物件を転売する主な流れは、以下のとおりです。
- 1. 売主に手付金を支払いつつ売主と売買契約を結ぶ
- 2. 買主と売買契約を結び、物件代金を受け取る
- 3. 買主から支払われた物件代金を以て売主に決済する
- 4. 売主から買主に物件が引き渡される
- 5. 売主から買主へ所有権が直接移す
物件の所有権が売主から買主に直接移り、転売する不動産業者が所有権を取得しないという仕組みは、第三者のためにする契約と変わりません。
しかし、不動産業者がいったんは物件を取得しているにもかかわらず、それが登記されないことは、不動産登記のことを定めた法律「不動産登記法」の理念に反すると法務局からみなされます。
よって、平成16年6月に不動産登記法が改正され、中間省略登記はできなくなりました。
しかし、不動産業者をはじめ、様々な方面から中間省略登記ができないことは不便との意見が発せられます。
これを受けた内閣の諮問機関「規制改革・民間開放推進会議」は、法務省と意見を交換しつつ中間省略登記に代わる手段を模索します。
そして、平成18年12月に同推進協議会は、「法務省に第三者のためにする契約などを用いれば、不動産を転売する際に、売主から買主へ所有権を直接移すことはできるかと質問をしたところ、問題ないとの回答を得た」と発表します。
それ以降、中間省略登記の代替手段として利用されているのが、第三者のためにする契約です。
中間省略登記とは、第三者のためにする契約が用いられる前に、不動産業者が物件を転売する際に用いた手法であり、中間省略登記を用いて不動産業者は物件を転売し、自らが所有権を取得したことの登記、つまり中間の登記を省略していました。
なお、第三者のためにする契約は、中間省略登記の代替手段として用いられることとなったため、新中間省略登記と呼ばれることもあります。
まとめ
図解の要素を取り入れつつ、第三者のためにする契約をわかりやすく解説しました。
第三者のためにする契約とは、不動産業者が物件を転売する状況において、物件の売主と結ぶ契約です。
不動産業者が第三者のためにする契約を用いて物件を転売すれば、物件の所有権は売主から買主へ直接移ります。
これにより不動産業者は、登録免許税と不動産取得税を節約しつつ転売コストを抑えることが可能です。
また、不動産業者が第三者のためにする契約を用いて物件を転売すれば、買主に物件の仕入れ値が漏れることがなく、買い取り額より高く転売するなどして大きな利益を得られます。
一方、第三者のためにする契約を用いて転売される物件の買主には、一般の物件を購入するより長期間にわたり修補を請求できるというメリットがあります。
しかし、そもそもの物件価格を把握できず、その物件が有する本来の価値を上回る額で物件を購入する可能性があるというデメリットもあります。
特に、不動産投資を始めたいと希望する投資家の方が、第三者のためにする契約により転売される物件を、三為業者が斡旋する銀行のローンを用いて購入する際は、債務超過に陥る可能性があるため注意が必要です。
不動産の購入を希望しつつ売買契約に臨むものの、その物件が第三者のためにする契約により転売される物件かわからない場合は、特約に「不動産業者の買主に対する所有権移転債務は売主が実行し、物件の所有権は売主から買主へ直接移転する」などの記述がないか確認すれば判断できます。
第三者のためにする契約により転売される全ての物件が、本来の価格より高額とは限りませんが、三為契約により転売される物件を購入する際は、その価格が妥当であるか慎重にご確認ください。
ご紹介した内容が、第三者のためにする契約をお調べになる皆様に役立てば幸いです。失礼いたします。
記事公開日:2022年8月
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