筆界特定制度のデメリット

筆界特定制度のデメリット

筆界特定制度には、申請するだけで法務局の掲示板やホームページに公告され、世間に知れ渡るというデメリットがあります。

また、筆界特定制度には、わかるのは登記簿上の境界のみであり、現地の境界はわからないというデメリットも存在し、利用する際は注意が必要です。

筆界特定制度のデメリットをご紹介しましょう。

目次

1. 筆界特定制度のデメリット

筆界特定制度には、申請するだけで法務局の掲示板に公告される、登記簿上の境界しか特定されない、隣人が結果に納得しなければ意味がないなど、5つのデメリットがあります。

筆界特定制度の5つのデメリット
  • 申請するだけで法務局の掲示板やホームページに公告される
  • 書面上の境界である「筆界」のみが特定される
  • 隣人が特定された筆界に納得しなければ意味がない
  • 50万円から150万円など、思いのほか費用がかかる
  • 登記簿に筆界特定が行われたことが記される

それぞれのデメリットの詳細は、以下のとおりです。

筆界特定制度は、法務局の掲示板に公告されるのがデメリット

筆界特定制度の利用を希望する際は、法務局に申請をする必要があり、申請をすると法務局の掲示板やホームページに公告されるのがデメリットです。

公告されれば、誰もがその事実を知ることができます。

以下は、私がこの記事を作成する2024年1月の時点において、大阪法務局で公告されている筆界特定制度の申請がされたことの公告です。

筆界特定制度には、申請をすると法務局に公告されるというデメリットがある

出典:法務局

上記の一部の箇所は赤く塗りつぶされていますが、それは私が塗りつぶしたものであり、実際は筆界特定が行われる土地の所在地が記されています。

また、筆界特定制度は、申請をしたものの法務局に却下された際や、申請後に申請を取り下げることでも公告されます。

さらに、筆界が特定しても公告され、特定された筆界が記された資料は法務局に保管されることとなり、誰もが閲覧できるようになります。

法務局の公告は以下などで確認でき、筆界特定制度は、ありとあらゆることが公告され、その事実が知れ渡ることがデメリットです。

なお、筆界特定制度と同じく境界に関する紛争を解決できる制度として、「裁判外紛争解決手続(通称:ADR)」があります。

裁判外紛争解決手続とは、法務大臣の認証を受けた民間の紛争解決機関に紛争の調停を申し立てる制度です。

裁判外紛争解決手続を利用する際は隣人の協力が必要となりますが、利用すれば、弁護士や土地家屋調査士らによって紛争の解決が図られます。

そして、裁判外紛争解決手続は申し立てをしても公告されることがなく、調停は非公開で行われるため秘密が守られます。

よって、秘密を守りつつ土地の境界に関する紛争を解決したい場合は、裁判外紛争解決手続の利用をご検討ください。

紛争解決機関の一覧は、「日本土地家屋調査士会連合会:ADR境界問題相談センター」にて確認することが可能です。

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筆界特定制度は、所有権界は特定されないのがデメリット

筆界特定制度は、書面上の境界である「筆界」のみが特定され、現場の境界である「所有権界」は特定されないというデメリットがあります。

土地の境界には「筆界(ひっかい)」と「所有権界(しょゆうけんかい)」があり、筆界とは、登記簿や公図から察する地番と地番の境目です。

これに対して所有権界とは現地の境界であり、所有権と所有権の境目であり、占有する領域の境目を指します。

筆界と所有権界は一致しないことがあり、一致しなければ境界がわからず隣人と紛争になります。

筆界特定制度には、所有権界は特定されないというデメリットがある

そして、筆界特定制度で特定されるのは、筆界のみとなっています。

そのため、筆界特定制度によって筆界が特定しても、所有権界に関する紛争は解決しない可能性があります。

所有権界に関する紛争は解決できない可能性があることが、筆界特定制度のデメリットです。

なお、筆界特定制度によって特定するのは筆界のみですが、特定された筆界を基に利害関係者が平等な境界を新たに設ければ、所有権界に関する紛争も解決できます。

したがって、筆界特定制度を利用する際は予め隣人と協議し、特定された筆界を基に平等な境界を新たに設けることの内諾を得ておくのが賢明です。

難しいかもしれませんが、そうすれば、筆界特定制度を利用することによって筆界と所有権界の両方の紛争を解決できます。

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筆界特定制度は、法的拘束力がないのがデメリット

筆界特定制度は法的拘束力がなく、特定された筆界に利害関係者が納得しなければ、境界標を設置できないことがデメリットです。

筆界特定制度を利用すれば筆界が特定されますが、それはあくまで法務局長が任命した筆界特定登記官と筆界調査委員の意見をまとめた結果であり、行政レベルでの判断を示したものです。

また、筆界特定制度によって筆界が特定すれば法務局から通知が届きますが、座標値などが記された「筆界特定書」という書面が届くのみであり、現地でマーキングされる訳ではありません。

筆界特定制度は、「境界はここだから境界標を設置しなさい」という権限を持たない者に筆界の特定を依頼し、特定された位置が書面で知らされるだけの制度となっています。

特定された筆界に利害関係者が納得しなければ、筆界特定は意味をなしません。

筆界特定制度は、隣人が特定結果に納得しなければ意味がないというデメリットがある

なお、筆界特定制度によって特定された筆界に納得できず引き続き境界の特定を希望する場合は、境界確定訴訟に臨むこととなります。

境界確定訴訟とは、裁判所に境界の確定を求める訴訟であり、筆界、所有権界を問わず確定を求めることができ、判決には法的拘束力があります。

そして、筆界特定制度によって筆界が特定された状況において、その結果に納得できず訴訟を起こした場合は、筆界特定制度によって特定された筆界が有力な証拠として採用されることがあります。

つまり、筆界特定制度によって特定された筆界には法的拘束力がないものの、特定された筆界は有効であると考えることができるというわけです。

したがって、筆界特定制度は意味をなさない可能性があるものの、全くの無駄になるとは考えず、境界を確定させるための有力な手段として活用するのが賢明です。

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筆界特定制度は、予想以上に費用がかかるのがデメリット

筆界特定制度には、50万円から150万円など、予想以上に費用がかかるのがデメリットです。

筆界特定制度を利用する際は法務局に申請をしますが、申請の際は「申請手数料」を納める必要があります。

この手数料は、さほど高くはありません。

自らが所有する土地と、隣人が所有する土地の固定資産税評価額の合計を基に手数料の額が決定し、合計額が4,000万円であれば申請手数料は8,000円です。

以下は、筆界特定制度の申請手数料です。

筆界特定制度の申請手数料

土地の固定資産税評価額の合計額 申請手数料
1,000万円 2,400円
2,000万円 4,000円
3,000万円 6,400円
4,000万円 8,000円
5,000万円 9,600円
1億円 14,400円

上記のように申請手数料は、さほど高くはありません。

しかし、申請手数料に加え測量費や土地家屋調査士への報酬なども支払う必要があり、事情の複雑さなどによって異なるものの、筆界特定制度には50万円から150万円程度の費用がかかります。

なお、土地の固定資産税評価額とは、市町村によって評価されたその土地の「適正な時価」であり、土地の固定資産税を計算する基となる額を指します。

所有する土地の固定資産税評価額は、毎年4月ごろに届く固定資産税の課税明細書に「価格」や「評価額」などの名目で記されています。

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筆界特定制度は、登記簿に記されるのがデメリット

筆界特定制度は、筆界が特定されると登記簿に記され、誰もが筆界特定が行われたことを知ることができるというデメリットがあります。

それは、自らや隣地の所有者が、筆界特定制度によって特定された筆界に納得しない場合も変わりません。

以下は、法務省が公開する土地の登記簿を写した書面「登記事項証明書」の見本の一部であり、筆界特定が行われれば、赤い線で囲まれた箇所に手続き番号や筆界が特定した日などが記されます。

筆界特定制度は、筆界が特定されれば登記簿に記されるというデメリットがある

出典:法務省

筆界特定制度を利用しつつ筆界が特定され、その結果に利害関係者が納得し、それが登記簿に反映されたのであれば、筆界特定が行われたことが登記簿に記されても問題はありません。

しかし、筆界が特定したものの利害関係者が納得せず紛争が未解決の状況において、筆界特定が行われたことが登記簿に記されれば、土地を売却する際に買い主に悪い印象を与える可能性があります。

筆界が特定されると登記簿に記されることが、筆界特定制度のデメリットです。

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2. 筆界特定制度のメリット

筆界特定制度には、筆界しか判明しない、隣人や自らが特定された筆界に納得しなければ意味がない、法務局に公告され事態が大っぴらになる、筆界特定が行われたことが登記簿に記されるなどのデメリットがあります。

一方、筆界特定制度には、隣人の協力がなくとも申請できる、境界確定訴訟より費用が安く済むなどのメリットがあります。

ここからは、筆界特定制度のメリットをご紹介しましょう。

筆界特定制度は、隣人の協力がなくとも申請できるのがメリット

筆界特定制度は法務局に申請をすることにより利用できますが、利用する際は隣人の承諾は不要です。

また、筆界特定制度は、筆界が特定される課程において法務局が利害関係者を招集しますが、隣人が応じなくとも筆界は特定されます。

隣人の協力がなく、立ち会いなどに応じなくとも筆界を特定できるのが、筆界特定制度のメリットです。

なお、筆界特定制度によって特定された筆界に納得できなければ境界確定訴訟にて境界を特定することとなりますが、境界確定訴訟も隣人の承諾や協力は不要です。

しかし、裁判外紛争解決手続(通称:ADR)を利用して調停での境界に関する紛争の解決を希望する場合は、隣人の協力が必要となるため留意してください。

裁判外紛争解決手続は民間の紛争解決機関が調停による紛争の解決を図る制度のため、隣人の協力がなければ成り立ちません。

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筆界特定制度は、境界確定訴訟より費用が安く済むのがメリット

筆界特定制度は、50万円から150万円など高額な費用がかかりますが、それでも境界確定訴訟より安く済むのがメリットです。

境界確定訴訟とは、裁判所に境界の確定を求める総称であり、筆界特定制度と異なり判決には法的拘束力があります。

しかし、境界確定訴訟の費用は、弁護士や土地家屋調査士への報酬、測量費など、安くとも200万円程度といわれます。

また、筆界特定制度は概ね1年程度で筆界が特定されますが、境界確定訴訟で境界が確定するのは2年後から5年後などです。

筆界特定制度は費用がかかるものの、それでも境界確定訴訟より安く済み、時間もかからないのがメリットとなっています。

なお、境界に関する紛争を解決する手段として「裁判外紛争解決手続(通称:ADR)」がありますが、ADRの費用の目安は筆界特定制度と同じく50万円から150万円程度であり、調停が成立、または不成立に至るまでの期間は1年程度です。

筆界特定制度は、境界確定訴訟より費用が安く済むのがメリット

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3. 筆界特定制度とは?

ここからは、筆界特定制度のデメリットをお調べの方へ向けて、そもそも筆界特定とはどのような制度なのか、わかりやすく解説しましょう。

筆界特定制度とは、法務局に筆界の特定を依頼する制度であり、法務局に制度の利用を希望することを申請すれば、土地家屋調査士などの専門家によって筆界が特定されます。

筆界の読み方は「ひっかい」であり、筆界とは、登記簿や公図などの書面上の土地の境目を指します。

土地の境界には「筆界」と「所有権界(しょゆうけんかい)」があり、所有権界とは、現地における土地の境目を指し、所有権と所有権の境界を指します。

筆界と所有権界は一致することがあれば、なにかしらの理由で一致しないこともあります。

たとえば、隣り合う土地を所有するAさんとBさんがいらっしゃったとしましょう。

AさんとBさんの土地は、当初は三角形を並べたような形で隣接していました。

その時点では、筆界と所有権界は一致していますが、使い勝手が悪く、互いに合意した上で四角形が並ぶような形になるように所有権界を変更しました。

そこまでは良かったのですが、AさんとBさんは、所有権界を変更したことを登記簿に反映させませんでした。

この時点において、筆界と所有権界が異なる状況が発生します。

所有権界を変更したものの登記簿に反映させなければ、筆界と所有権界が異なる状況が発生する

AさんとBさんが土地を使い続ける限りは、筆界と所有権界が異なっても紛争にはなりません。

しかし、AさんとBさんのどちらかの一方、もしくは両者が土地を売却するなどして所有者が変われば、筆界と所有権界が異なることを理由にトラブルが発生することがあります。

そして、筆界特定制度によって特定されるのは筆界のみのため、制度を利用しても所有権界に関する紛争は解決できない可能性があります。

また、筆界特定制度によって特定された筆界には法的拘束力がなく、利害関係者が納得しなければ、特定された位置に境界標を埋設したり、特定された位置を登記簿に記すことはできません。

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4. 筆界特定制度の流れ

筆界特定制度は、法務局に手数料を払いつつ申請し、予納金を納めることにより測量などが行われ、筆界が特定されるという流れで実施されます。

筆界特定制度の流れは、以下のとおりです。

筆界特定制度の流れ

  1. 法務局への申請と申請手数料の納付
  2. 法務局での公告と関係者への通知、法務局による現地調査
  3. 予納金と測量、関係者への意見徴収と立ち会い
  4. 筆界の特定と関係者への通知

それぞれの流れの詳細を、順を追ってご紹介しましょう。

法務局への申請と手数料の納付

筆界特定制度の流れとして、はじめに、法務局に申請手数料を払いつつ筆界特定制度の利用を希望することを申請します。

申請手数料は、自らの土地と隣地の固定資産税評価額の合計額を基に額が決定し、合計額が多いほど申請手数料は高くなります。

固定資産税評価額の合計額が3,000万円であれば手数料は6,400円、合計額が4,000万円であれば手数料は8,000円、合計額が5,000万円であれば手数料は9,600円になるといった具合です。

所有する土地の固定資産税評価額は、毎年4月ごろに届く固定資産税の課税明細書に「価格」や「評価額」などの名目で記されています。

隣地の固定資産税評価額は隣人に聞けば把握できますが、関係が悪く聞くことができない場合は、ひとまずは自らの土地の固定資産税評価額のみを基に計算した手数料を納めます。

そして、後日法務局から不足分が請求され、追納することにより申請が完了します。

申請が完了すれば、法務局によって申請書類が確認されるなどし、問題がなければ次の流れに進みます。

書類に不備がある、そもそも申請する権利がないなどと判断された場合は、申請は却下されます。

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法務局での公告と関係者への通知、法務局による現地調査

申請が完了すれば、申請が行われたことが法務局のホームページや掲示板に公告されます。

また、隣地の所有者にも筆界特定制度の申請が行われたことが通知され、公告と通知が完了すれば、利害関係者は法務局に意見書や資料を提出をすることが可能です。

そして、法務局長から任命された筆界特定登記官と筆界調査委員らによって現地調査が行われます。

なお、筆界特定調査委員は、主に土地家屋調査士で構成されます。

そして、市町村によっては、土地家屋調査士の無料相談を行っていることがあります。

したがって、筆界特定制度の利用を検討するものの躊躇する場合は、申請前に市町村の土地家屋調査士の無料相談を利用し、アドバイスを受けるなどしてください。

そうすれば、筆界特定制度のより詳細な流れや注意点などを聞くことができます。

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予納金と測量、関係者への意見徴収と立ち会い

筆界特定登記官と筆界調査委員らによる現地調査が完了すれば、法務局から測量費などの費用を予納するように案内が届きます。

予納すべき額は自らの土地や隣地の広さ、隣接する土地の数、状況の複雑さなどによって異なりますが、概ね50万円から150万円程度です。

予納金は申請者が納めることとなり、納めれば測量などが行われ、納めなければ申請は却下されます。

予納金を納めつつ測量が行われれば、筆界特定登記官らによって利害関係者が招集され、意見の徴収が行われます。

その際に利害関係者は、それまでに筆界特定登記官や筆界調査委員が作成した資料や、他の利害関係者から提出された資料を閲覧することが可能です。

なお、筆界特定制度の正確な流れは、「法務局|筆界特定制度の流れ」、または「国土交通省|筆界特定制度とは」にて確認できます。

以下は、法務局の資料に掲載されている筆界特定制度の流れです。

筆界特定制度の流れ

出典:法務局

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筆界の特定と関係者への通知

これまでの流れが完了すれば、筆界特定登記官らによって筆界が特定され、特定されたことが法務局のホームページや掲示板に公告され、隣地の所有者に通知されます。

また、申請者には、特定された筆界の座標値などが記された「筆界特定通知書」が届き、その内容は法務局に資料として保管され、誰もが閲覧できるようになります。

特定された筆界に利害関係者が納得すれば、その筆界を登記簿に記すことが可能です。

納得できなければ、境界確定訴訟に臨みつつ境界を確定することとなります。

以上が、筆界特定制度の流れです。

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まとめ

筆界特定制度のデメリットやメリット、筆界が特定される流れなどご紹介しました。

筆界特定制度には、法務局に公告される、所有権界は特定されない、法的拘束力がない、50万円から150万円などの費用がかかる、制度が利用されたことが登記簿に記されるなどのデメリットがあります。

一方、筆界特定制度には、隣人の協力がなく立ち会いに応じなくとも利用できる、境界確定訴訟より費用が安く短期間で筆界が特定されるというメリットがあります。

筆界特定制度は、法務局に手数料を払いつつ申請することにより利用することが可能であり、予納金を納めるなどすれば筆界が特定されます。

筆界特定制度のデメリットをお調べの方がいらっしゃいましたら、ぜひご参考になさってください。

ご紹介した内容が、筆界特定制度のデメリットをお調べの皆様に役立てば幸いです。失礼いたします。

記事公開日:2024年1月

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